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ファンタジーとラブストーリー:『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロの実に十年ぶりの新刊。
個人的には『日の名残り』『私を離さないで』に続く3冊目。2冊ともここ2年ぐらいで読んだので、その意味では初めてリアルタイムで読むカズオ・イシグロ

舞台は中世イギリス。アーサー王亡き後のようなので6~7世紀か。
老夫婦が暮らす集落は“霧”のせいでみなの記憶が薄れている。老夫婦は時々浮かぶ断片的な過去の記憶を抱え、それが何かわからぬまま暮らしてきた。
春が近づいてきた日の朝、夫アクセルは、妻ベアトリスのかねての希望を果たそうと決める。老夫婦は、とうの昔に家を飛び出した息子に会いに行いにいく旅に出た。
その道中では使命を果たすために同じく旅をするサクソン人の勇者、いわくつきの竜を倒す使命に燃える老騎士、不遇をかこった少年などと出会い、その歩みを進めていくうち、“霧“の正体が明らかになり…

伝説とされているアーサー王や竜をモチーフに用いるファンタジー要素が目に付くが、実は根底に流れているのは老夫婦のラブストーリーだ。
もしかしたら“霧”のおかげで平穏な夫婦生活が遅れてきたのかもしれない…すべての記憶が戻った時、妻は失望せずにいてくれるだろうか。アクセルが抱く不安は、なにもこの物語だけのものではない。
人間は忘れることで生きていけると言われる。だが、もしそれが不都合な真実を隠すことで成り立つ平穏だとしたら…

忘れられた巨人

忘れられた巨人