MINOTAKE LIFE

死ぬまで無事系サラリーマンの、身の丈に合った生活

『佐治敬三と開高健 最強のふたり』北康利

開高健というと、まずサントリーの広告部門が独立したサン・アドの創立の言葉が浮かぶ。
なんと美しい文章だろうか。
私はちょっと気分が鬱屈してくると、この文章を読む。
好きな詩はないが、強いていえばこれかもしれない。
そしてありきたりだが、トリスの広告。

「人間」らしくやりたいナ
トリスを飲んで
「人間」らしくやりたいナ
「人間」なんだからナ

こんなに短い文章で、どうしてこんなにたくさんの思いが浮かぶのか。

言葉の魔術師、開高健

彼は明るく楽しく、短くも太く生きた人なのだろうという人物像を描いていた。
そしてさぞかし暖かい家庭を築いていたんだろうとーーー

「悪妻」牧羊子の束縛、芥川賞受賞後の大スランプと、生涯つきまとった鬱病。本書に描かれている開高健は、一言でいえば陰鬱である。

そしてもう一人の主人公、佐治敬三もまた、豪快洒脱なワンマン経営者のイメージが強いが、金持ちのボンとして安穏と歩んできたのではなかった。金持ちのボンに、ウイスキー文化を日本に根付かせ、アサヒキリンサッポロの3強が独占したビール市場に殴り込みをかけることなど出来なかったはずだ。
著者の憶測ではあるが・・おそらく真実であろう、経営危機にあった壽屋の資金繰りのために養子にだされ「佐治」を名乗るようになった過去があるから、ただのボンでは終わらなかったのではあるまいか。

世間的には豪快洒脱、酒と文化を愛する自由人。
そんなイメージとは真反対の、脆く繊細な心を持つ2人だから、社長と社員の枠を超えた強いつながり、佐治敬三に「兄弟というと他人行儀である」とまでいわしめた深い友情があった。
佐治敬三とて、開高健という天才の力なしにサントリーをここまで大きくすることは不可能だったろう。
開高健もまた、佐治敬三の庇護により作家として開花できたのだ。
二人で一人。
今なおこの二人が残したものは、私たちの生活の随所に顔を出す。

佐治敬三と開高健 最強のふたり

佐治敬三と開高健 最強のふたり