MINOTAKE LIFE

死ぬまで無事系サラリーマンの、身の丈に合った生活

『あ・うん』向田邦子

出鼻から余談だが、ずっとこの本は昭和天皇の話だと思いこんでいた。
昭和天皇のくちぐせは「あ、そう」だった。
よく読みなさい、という話だ。

戦前の市井の人、門倉と仙吉、そして門倉が思いを寄せる仙吉の妻の絶妙なバランス。みんなが本心を心に留めながら、でも各々が相手のことを絶対に欠かせない存在として大切にしている。
いわゆる三角関係という題材だと、どうしたって最終的には誰かひとりが去ることになり、三人の関係は切れてしまう。
しかし、現実は案外そうでもないのかもしれない。三角関係の経験がないので全部妄想なのが人として未熟だが、当事者三人がみなその関係に気づいてたとしても、敢えて言わない、白黒つけようとはしないものじゃないかと思うのだ。
向田邦子の読ませるところは、こういう究極に作り込んだ自然さだ。『父の詫び状』を読んだとき、向田邦子という人はなんて自然な、創作っぽさのない文章を書く人なんだろうと思った。だがその後何作か読み、そしてこの作品を読んで、自然体どころかめちゃくちゃ作り込んでいて、作り込みが極まった先の自然さなのだと思った。

これ、内容もいいけど中川一政さんの装幀もすばらしい。

あ・うん (文春文庫)

あ・うん (文春文庫)